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コラム

有機溶剤を扱う際に知っておきたい基礎知識と法令対応

有機溶剤は、塗装や洗浄、接着、分析、化学合成など、さまざまな現場で使用されている身近な化学物質です。一方で、蒸気の吸入による健康被害や火災・爆発のリスクがあり、安全に取り扱うためには適切な管理が欠かせません。
この記事では、有機溶剤の基礎知識や主な危険性、有機則・特化則の概要、事業者に求められる対応、安全対策のポイントについて分かりやすく解説します。

有機溶剤とは?主な種類と用途を解説

まずは、有機溶剤とは何なのか、用途や種類などの基礎知識について知っておきましょう。

有機溶剤の定義と主な用途

有機溶剤とは、炭素を含む有機化合物の一部であり、他の物質を溶かす性質を持つ液体の総称です。水には溶けない油や樹脂などを均一に溶かし、加工しやすくするために用いられます。
多くの有機溶剤は揮発性が高く、蒸気として空気中に拡散する特性を持っています。この揮発性こそが、安全管理において注意すべき点となります。作業者が無自覚のうちに吸い込んで健康被害を引き起こしたり、引火源があれば火災や爆発につながったりする危険性があるためです。

【代表的な有機溶剤一覧】種類と特徴

研究室や製造現場で使用される代表的な有機溶剤には、以下のようなものがあります。

有機溶剤ごとに危険性や適切な取り扱い方法は異なります。実際に使用する際は、必ずSDS(安全データシート)を確認し、必要な安全対策を講じることが重要です。

知っておくべき有機溶剤の危険性と健康への影響

有機溶剤は洗浄や分析、製造工程などで広く使用されていますが、取り扱いを誤ると健康障害や火災・爆発事故につながるおそれがあります。
ここでは、有機溶剤を扱ううえで特に注意したい代表的なリスクを解説します。

蒸気の吸入による健康被害

有機溶剤の多くは揮発性が高く、蒸気を吸入することで体内に取り込まれます。高濃度の蒸気を吸うと、めまいや頭痛、吐き気などの急性中毒症状を引き起こすことがあります。また、長期間にわたりばく露すると、神経系や肝臓・腎臓への影響など慢性的な健康障害につながる可能性があります。適切な換気や局所排気装置の使用が重要です。

皮膚からの吸収による影響

有機溶剤は皮膚の油分を奪うため、手荒れや皮膚炎の原因となります。また、一部の物質は皮膚から体内へ吸収され、全身に影響を及ぼすことがあります。作業時は対象物質に適した保護手袋を使用し、皮膚への接触をできるだけ避けることが大切です。

引火・爆発の危険性

多くの有機溶剤は引火性を持ち、蒸気が空気中に滞留すると火災や爆発の危険があります。特にアセトンやトルエンなどは常温でも蒸気が発生しやすいため注意が必要です。作業場所では火気や静電気対策を徹底し、十分な換気を行うことが重要です。

【重要】有機溶剤に関わる法令対応

有機溶剤を取り扱う事業者には、労働者の健康障害を防止するための法令遵守が求められます。
特に重要なのが「有機溶剤中毒予防規則(有機則)」「特定化学物質障害予防規則(特化則)」です。
まずは各規則の概要と対象物質、事業者に求められる主な対応について確認しましょう。

「有機則」と「特化則」について

有機溶剤の管理において重要な法令が、「有機溶剤中毒予防規則」(有機則)と「特定化学物質障害予防規則」(特化則)です。
有機則は、有機溶剤による健康障害の防止を目的とした規則です。一方、特化則は、発がん性など健康への影響が大きい特定の化学物質を対象としており、一部の有機溶剤も規制対象に含まれます。
取り扱う物質によって適用される法令が異なるため、事前にSDSを確認し、対象物質を把握しておくことが重要です。

【一覧】有機則・特化則による有機溶剤の分類と対象物質

有機則では、有機溶剤を有害性などに応じて第一種・第二種・第三種に分類しています。また、一部の有機溶剤は特化則の対象となる「特別有機溶剤」に指定されています。
まずは、それぞれの分類と代表的な対象物質を確認してみましょう。

第一種有機溶剤

「第一種有機溶剤」は、有機溶剤の中でも特に毒性が高く、厳しく規制されている分類です。これらの物質は、労働者の健康に与えるリスクが非常に大きいため、製造や使用が原則として禁止されているものも含まれます。
代表的な対象物質としては、クロロホルム、四塩化炭素、トリクロルエチレンなどが挙げられます。これらの物質の多くは、現在では特化則の「特別有機溶剤」にも指定されており、より厳格な管理が求められる点にご留意ください。

第二種有機溶剤

「第二種有機溶剤」は、産業現場で非常に広く使用されている多くの溶剤が該当する分類で、実務上最も注意が必要なグループと言えます。
代表的な対象物質には、アセトン、イソプロピルアルコール(IPA)、キシレン、トルエン、メタノールなどがあります。これらの溶剤を屋内で使用する場合には、作業環境測定の実施や局所排気装置の設置といった義務が課せられます。使用頻度が高いからこそ、その特性と必要な対策を理解しておくことが重要です。

第三種有機溶剤

「第三種有機溶剤」は、第一種や第二種に比べて毒性が比較的低いとされる溶剤の分類です。
代表的な対象物質としては、ガソリン、クレオソート油、テレビン油などが含まれます。第三種有機溶剤の場合、第一種や第二種のような局所排気装置の設置義務は原則としてありませんが、全体換気装置の設置や、容器への表示義務といった基本的な管理は必要です。毒性が低いとはいえ、安易な取り扱いは避け、適切な管理を心がけましょう。

特別有機溶剤(特化則対象)

特定化学物質障害予防規則(特化則)の対象となる「特別有機溶剤」は、有機溶剤の中でも特に発がん性などの慢性的な健康障害のリスクが高い物質であり、有機則よりもさらに厳格な規制が適用されます。
代表的な物質としては、エチルベンゼン、クロロホルム、ジクロロメタン(二塩化メチレン)、トリクロルエチレンなどが指定されています。これらの特別有機溶剤を扱う事業場では、通常の有機則の規制に加えて、作業記録の30年保存義務や、より厳しい基準での作業環境測定など、さらに詳細な管理が求められます。

事業者に求められる具体的な措置

有機溶剤を取り扱う事業場では、有機則や特化則に基づき、さまざまな安全対策の実施が求められます。

有機溶剤作業主任者の選任

第一種または第二種有機溶剤を取り扱う一定の作業場では、「有機溶剤作業主任者」の選任が義務付けられています。
有機溶剤作業主任者は、有機溶剤による健康障害や事故を防ぐため、作業方法の管理や作業者への指揮監督、局所排気装置などの換気設備の点検、保護具の使用状況の確認を行う役割を担います。
なお、有機溶剤作業主任者として選任されるには、「有機溶剤作業主任者技能講習」を修了していることが必要です。

作業環境測定の実施

有機溶剤を取り扱う作業場では、空気中の有機溶剤濃度を測定する「作業環境測定」の実施が義務付けられています。
作業環境測定は、原則として6ヶ月以内ごとに1回実施しなければなりません。測定は専門の知識と技術を持つ作業環境測定士が行う必要があり、測定結果は、「管理区分」として第1管理区分、第2管理区分、第3管理区分の3段階で評価されます。
第2管理区分や第3管理区分と評価された場合は、換気設備の改善や作業方法の見直しなど、作業環境の改善措置を講じる必要があります。

局所排気装置など換気設備の設置と点検

有機溶剤による健康被害を防ぐため、第一種または第二種有機溶剤を取り扱う屋内作業場では、局所排気装置(ドラフトチャンバーなど)やプッシュプル型換気装置などの設置が義務付けられています。
これらの設備は、安全な作業環境を保つために、1年以内ごとに1回の定期的な点検が義務付けられています。
詳しくは下記リンクのページをご覧ください。
リンク|メンテナンス機器一覧:ドラフトチャンバー(ヒュームフード)

特殊健康診断の実施

有機溶剤業務に従事する労働者に対しては、特殊健康診断の実施が義務付けられています。健康診断は配置時およびその後6か月以内ごとに1回実施し、自覚症状の確認や尿検査などを通じて健康状態を把握します。診断結果に応じて、作業環境の改善や配置転換などの措置を講じることが求められます。

労働者への安全衛生教育

有機溶剤業務に従事する労働者に対しては、労働安全衛生法に基づき安全衛生教育を実施することが事業者に義務付けられています。この教育では、有機溶剤の危険有害性や正しい取り扱い方法、保護具の使用方法、事故発生時の対応などを周知します。

容器へのラベル表示とSDSの備え付け

有機溶剤を安全に取り扱うため、事業者には容器へのラベル表示やSDS(安全データシート)の備え付け・周知が義務付けられています。
有機溶剤を含む製品の容器や包装には、製品名や危険有害性、注意事項などを適切に表示しなければなりません。また、大きな容器から小分けして使用する場合も、内容物や危険性が分かるよう表示を行うことが重要です。
また、事業者は製品ごとのSDSを入手し、作業者がいつでも確認できる状態で保管・周知する必要があります。SDSには成分情報や危険有害性、保管・取り扱い上の注意事項、緊急時の対応方法などが記載されており、安全な作業管理を行うための重要な資料となります。

有機溶剤を扱う現場で実践したい安全対策

有機溶剤による健康被害や事故を防ぐためには、法令で定められた措置を遵守するだけでなく、日常的な安全対策を徹底することが重要です。
ここでは、有機溶剤を扱う現場で特に重要となる「リスクアセスメント」「換気」「保護具」「日常点検・健康管理」の4つのポイントを紹介します。

リスクアセスメントの実施

有機溶剤を安全に取り扱うためには、使用前に「その作業で、どのような危険や健康影響が起こり得るか」を確認するリスクアセスメントが重要です。化学物質の自律的管理では、物質ごとの性質や実際の作業内容に応じてリスクを見積もり、必要な対策を講じることが求められています。
まずはSDSで、有機溶剤の危険有害性、引火性、推奨される保護具や換気方法を確認します。そのうえで、使用量、容器を開放する時間、作業場所の換気状況、局所排気装置の有無などを確認しましょう。
たとえば、換気が不十分な場所で容器を開けたまま作業すると、溶剤蒸気を吸い込むリスクが高まります。リスクが高い場合は、有害性の低い物質への代替、使用量や開放時間の削減、局所排気装置の活用、作業手順の見直しなどを検討します。
新しい薬品を採用するときや、使用量・作業手順を変更するときには、あらためてリスクアセスメントを実施し、現場に合った対策につなげることが大切です。

換気の徹底と局所排気装置の適切な使用

有機溶剤の蒸気による健康被害を防ぐためには、適切な換気が欠かせません。特に、有害物質の発生源を直接制御する「局所排気」は、作業場全体の空気を入れ替える「全体換気」よりもはるかに効果的です。
ドラフトチャンバーやプッシュプル型換気装置といった局所排気装置の性能を最大限に引き出すためには、いくつかのポイントがあります。

・開口部を必要以上に広げない
開口部を大きく開けすぎると、前面風速が低下し、蒸気が外部に漏れる原因となります。

・装置内に物を置きすぎない
空気の流れが阻害され、排気効率が低下してしまいます。

・発生源を排気口の近くに配置すること
有機溶剤などの発生源はできるだけ排気口に近い、装置の奥に置くことで、蒸気が拡散する前に効率良く捕捉できます。
設備の性能を正しく活用することで、作業者のばく露リスクを大きく低減できます。

保護具の適切な着用

有機溶剤を取り扱う際は、防毒マスクや保護手袋などの保護具を適切に使用する必要があります。
防毒マスクは、対象とする有機溶剤の種類に対応した吸収缶を選びます。例えば、特定の有機溶剤に対しては有機ガス用吸収缶を使用しますが、混合ガスの場合や、アンモニアなどの他のガスも発生する場合は、それに対応した吸収缶を選ぶ必要があります。さらに、吸収缶には「破過時間」という寿命があり、この時間を超えて使用すると保護効果が失われます。そのため、使用開始時間を記録し、定期的な交換を徹底することが大切です。
また、保護手袋は溶剤によって適した材質が異なるため、SDSを確認したうえで選定しましょう。
SDSには、その有機溶剤に推奨される手袋の材質(ニトリルゴム、フッ素ゴム、ブチルゴムなど)が明記されています。必ず確認し、適切な材質の手袋を選んでください。その他、穴が開いていないか、劣化していないかを日常的に確認し、異常があればすぐに交換する習慣を作ることが、皮膚からの吸収を防ぐポイントです。

日常点検と健康管理

有機溶剤による事故や健康被害を未然に防ぐためには、法定点検だけでなく、日々の日常点検が大切です。作業を開始する前には、まず局所排気装置が正常に作動しているか、保護具に破損や劣化がないかを確認することを習慣化しましょう。
もし作業中にめまいや頭痛などの体調不良を感じた場合は、直ちに作業を中断し、状況を報告することが大切です。
また、有機溶剤は保管も適切に行う必要があります。施錠管理を徹底し、火気厳禁の場所に保管することはもちろん、直射日光を避ける、換気の良い場所に置くなど、引火や揮発を防ぐための措置を講じてください。廃液や廃棄物は法令に従って処理する必要があります。

✅局所排気装置の日常点検については、こちらの記事で解説しています!
【コラム】局所排気装置のセルフチェック|計測器なしで出来る日常点検のコツ

まとめ:法令遵守と自主的な管理で安全な職場環境を構築する

有機溶剤は、洗浄や塗装、研究開発などさまざまな現場で使用される便利な物質ですが、蒸気の吸入や皮膚からの吸収、火災・爆発などのリスクも伴います。そのため、有機溶剤の危険性を正しく理解し、有機則や特化則に基づく管理を徹底することが重要です。
また、作業環境測定や換気設備の維持管理、保護具の適切な使用、日常点検などを継続して行うことで、より安全な作業環境の構築につながります。

ダルトンメンテナンスでは、ドラフトチャンバー(ヒュームフード)などの局所排気装置や排ガス処理設備など、研究施設・実験施設における各種設備の点検・メンテナンスを行っています。
「換気設備が適切に機能しているか不安」「有機溶剤のにおいが気になる」「設備の管理方法を見直したい」といったお悩みがありましたら、お気軽にご相談ください。

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